世界は今、AI化に向けて社会システムそのものを大きく変革しようとしています。
もちろんビジネスもその例外ではありません。
むしろビジネスこそがその変革の中心であり、社会システムを変えていくエンジンとなっていく、そう言ってよいでしょう。
これまでビジネスは、当然ながら人の労働力ありきで、そこにAIをどう導入していくのかというのが経営の課題でした。
しかしAIが大きな進化を続ける今、ビジネスはAIありきでその仕組みを変えつつあります。
弊社はこれまで、さまざまな企業でAIコンサルタントやアドバイザーとして活動してきました。
この1年ほどは、従来のようなAI導入ではなく、AIを前提に既存のビジネスそのものを変革してしまおう、というAIファースト経営変革のコンサルティング業務に取り組んでいます。
その中から得た知見を、今回はできるだけ体系的に、そして実際に企業の変革案件として取り組んだ内容をもとに解説していきたいと思います。
生成AIの導入は、これまでは既存業務へのAI導入のことを指していました。
つまり、今ある業務はそのままに、大きなシステムや業務フローの変化をせずに、個人がツールを使って時短する。
これは導入障壁が低く、即効性も高い。
それゆえ取り組みも比較的容易でした。
ただし、経営として見たときに、既存業務へのAI導入は限界がある。
つまり
AIを後付けではなく、業務フロー・仕組み・サービスをAIありきで全く新しいものに設計し直す。
単なるAIツール導入ではなく、経営そのものを変えて、全社的に、これまでにないスピードで新しい価値を生み出すことを目指します。
AIありきの経営変革、これがAIファーストであり、AIファースト化された企業をAIファーストカンパニーと呼びます。
このAIファーストカンパニーが、世界的にビジネスの世界で注目されるのは、これまでにないスピードでこれまでにない規模の価値を生み出す可能性があるからです。
例えていうならば、AIによってこれまでの10倍のスピードで10倍の価値を生み出すことができる。
それが企業の生産性のスタンダードになる。
そのくらいのインパクトがあります。
まず前提として、AI活用の成果は、段階が上がると性質も変化します。
以下の図をご覧ください。
効率化(コスト削減):既存業務の処理時間短縮、工数削減 (あるいは人員削減)
↓↓↓
高度化:品質・精度・意思決定(例:分析、企画、設計のレベルアップ)
↓↓↓
価値創出:新規事業・サービス、顧客体験の革新、新市場の開拓
経営として理解しないといけないことは、削減と価値創出は別のレベルの取り組みだと言うことです。
削減は守りであり、ROI(投資利益率)が出やすい、ただしインパクトも限定的です。
一方創出は攻めであり、大規模な設計と投資が必要になり時間もかかる。
その代わりに成功した際のインパクトも非常に大きいのです。
AIファーストに進むほど、その目的は価値創出へ移ります。
単なる社員へのAIツール配布と研修だけで終わる企業は、気づいたときにはAIファースト化した企業に全く太刀打ちできないという状況に陥る可能性が考えられます。
前述した通り、10倍のスピードで10倍の価値を生み出すことができるのがAIファーストカンパニーです。
最前線でビジネスの指揮を取る世界の経営者たちが、AIファーストカンパニーに注目する理由がここにあります。
企業のAI活用は、往々にして個人利用 → 全社展開の移行となることが多いです。
少なくても今はそれが現実的なフェーズ展開となっています。
もちろん個人のツール利用を前提としたAI導入が意味がないわけではなく、それがあるからこそ全社展開が可能な面もあります。
さらに言うと、効果が出しやすいのが個人ツール利用を前提としたAI導入であり、AIファースト化は難易度もはるかに高く、同時に時間もかかります。
個人利用 → 全社展開という、例えればなだらかに白からグレーゾーンを少しずつ黒くなるような展開の流れが現実的と考えています。
個人利用は、その人の能力に大きく依存します。
この局面では、うまくいく人は自走し、ある意味勝手に成果を出してくれます。
逆に言うと成果を出せる人が限定される、と言うのが現実です。
しかし全社展開では、以下のことが必須になります。
これらをきちんと設計することなく、全社展開をする事は困難です。
そしてこの全社展開を行うには、AIだけではなく、ビジネスそのものを俯瞰して見られる能力というのが強く求められます。
つまりAIファースト化は非常に難しいということです。
AIツール導入が個人業務の効率化(部分最適) なのに対して、
AIファースト化は、仕組み全体を設計(全体最適)する必要があると前述しました。
では仕組み全体を設計するとは、実際にどのような取り組みを行えば良いのでしょうか。
最も基本的な取り組みを例として3つ取り上げます。
ここで誤解してはいけないのは、AIファーストはIT部門の案件ではなく、経営の設計案件だという点です。
業務、組織、評価、リスク、人材、データ、開発と全部つながっています。
部分最適の寄せ集めでは到達できません。
ただしITの知識、あるいはAI導入の担当部署となるIT部門の強さというのが、AIファースト化においては大きなアドバンテージとなります。
経営とAIが一体化する必要があるため、経営が弱くても、IT部門が弱くても、どちらもAIファースト化はうまく進みません。
通常このような取り組みでは、外部のコンサルタントというのがよく招聘されますが、AIファースト化においては、単なるビジネスコンサルタントではうまくいきません。
ではIT領域専門のコンサルタントなら大丈夫なのかと言われるとそれも難しいと考えます。
AIファーストは進むにつれ 制度・仕組み・システム思考が必要となり難易度が高くなるなります。
これは現場感とも一致します。
AI導入:比較的容易/即効性が高い
AIファースト:難易度が高い/インパクトが大きい
この記事を読んでいる皆様が、今AI導入の担当者で、まさにその取り組みの最中にいるとしたら、
「単なるAIツール導入以上の事を行う難しさ」や、「そもそも何をして良いのかわからない」
という状況をご理解していただけるのではないでしょうか。
前述しましたが、AIファーストを目指す中でも、AI導入フェーズが必ずしも不要でもなくだめなわけでもありません。
特に即効性が高いというのが大きなポイントです。
どんな取り組みにもまずは目先の短期的な成功というものは、取り組みの妥当性を社員に伝える効果があります。
そしてそれが長期的な取り組みとつながる、そんな推進エンジンとしても必要だということです。
次にAIファースト化の4つのステップを見てみましょう。
弊社ではこれまでの企業様への取り組みの中で、AIファーストを次の4要素で定義しました。
これが正解と言うわけでも、明確な決まりと言うわけでもないですが、
他の企業様においても活用していただける、妥当性のあるものと考えています。
経営陣が本気で旗を振らないAIは、全社には広がりません。
IT、DX部門任せのAI導入が失敗に至る理由は、AIファースト化が経営変革に他ならないためです。
制度がないAI活用は、AIが組織に拡大するほどリスクが増えます。
しかし制度が過剰に硬直すると実際の実務が止まってしまいます。
ここはバランスではなく、運用可能な統制=ガバナンスが必要という事です。
仕組みがないと成功を生み出せず、生み出した成功を再利用できません。
結果、毎回ゼロからの再スタートとなってしまいます。
これではAIファースト化が進みません。
つまりAIファースト化とは仕組み化なのです。
システム思考は、AIファースト化の仕上げのステップということができます。
これまでの3つのステップと違い、大規模な開発など、大きな意思決定が求められるステップです。
ここまで来ると、AIはツールではなく、いわば会社のOSになります。
実際に企業の皆様がAIファースト化の取り組みを行うためには、
前述のステップを具体的な取り組みへと細分化し落とし込む必要があります。
本章はこの4つのステップから、システム思考を除いた前段階の3つについて、
リーダーシップ2つ、制度4つ、仕組み2つ、の8つに分けて解説します。
システム思考については、前述した通り、大規模な開発が関わるなど全く異なるレベルの取り組みが必要なため、
AIファースト化の初期設定のガイドとなる今回の記事からは省略しました。
また改めて別の機会に解説をしたいと思います。
それではこの3つのステップ、8つの取り組みについて、日本国内の先進的な取り組み事例をもとにみてみましょう。
整理の結果わかった事は、このような先行企業はこれから紹介する8つの取り組みを、
どの企業も網羅的に取り組んでいるということです。
ここで重要なのは、ある企業はこの取り組みを行い、この取り組みは行わない、という差があるものではなく、
AIファースト化を推進する企業は、必要な取り組みは全て取り組んでいるということです。
いわばこの8つの取り組みは、AIファースト化において基本となり必須となる取り組みと捉えて良いかもしれません。
これら「リーダーシップ」、「制度」、「仕組み」に「システム思考」(AIを前提に業務やサービスを再設計する思考)を加えた4つのステップは、実はAIファースト化実現のための段階的なステップとなっています。
企業がAIファースト化に取り組む場合、このステップを参考に8つの具体的な取り組みをもって実践してみてください。
国内企業の事例として、8つの取り組みをどこまで実施しているかが整理してみました。
今回は
の4社を取り上げています。
以下の表は3つの記号で取り組みを以下の通り定義して表記しています。
◯=実施、△=一部、×=未実施
△については、一部の取り組み、またはおそらく取り組んでいるようですが正確な情報が取れなかったケースです。
取り組みの詳細な内容については、社風や業界、導入するツールによって違いがあるようです。
個別の取り組みについても、詳細な調査結果があるのですが、また別の機会に取り上げて解説をさせていただきます。
先ほどの8つの取り組みのうち、「活用レベルの評価基準」だけ取り組んでいる企業が少なく、DeNAの取り組み例があるのみでした。
このようなAI活用の評価基準は、まだ各社で最適化を模索している段階なのかもしれません。
そこで数少ない先行事例として、DeNAのAI活用評価基準について解説してみます。
DeNAはこのAI活用評価基準を DARS(DeNA AI Readiness Score) と命名しています。
DARSは個人×組織、を2つに分け、それぞれ各レベル1〜5までの評価基準を制定しています。
個人レベル:
個人がAIをどれだけ活用できているか エンジニア(開発職)と
非開発職(ビジネス/クリエイティブ/マネージャー等)で区分
それぞれレベル1〜5
組織レベル:部署・チーム単位でAI利活用の成熟度を測定
こちらもレベル1〜5
なお、レベル感の説明もされており
個人:レベル1=基礎的な知識や利用習慣、レベル5=AIを軸に全体設計やビジネス変革ができる
組織:レベル1=組織の中で試し始めている、レベル5=AIだからこそ可能な戦略が実行されている
となっています。
なおDARSについては、強調して解説すべき重要な観点があります。
それは、AI活用を評価する基準として使うが、個人の人事評価には直結しないと明記され、あくまで「推奨される役割・期待水準を示す」ものという位置付けになっていることです。
このように人事評価には直結しないと言及されるあたり、先行企業のDeNAでもまだ試験的な取り組みの段階であり、最適解を模索している段階ということなのでしょう。
つまり、全社的に一気に新しいテクノロジーを導入する場合、大きく分けると方法は2つしかありません。
DARSは上記2に該当します。
AI導入においてはまだ慎重に考える企業も多いですが、
AIファースト化においては、効果を発揮する施策と言うことができるため、
今後はより最適化された形で普及する可能性はあると考えています。
ここまで解説してきた通り、AIファースト化とは、
そして全社的な大きな変革作業となります。
時間もかかり、コストもかかり、そして負荷の高い変革が求められます。
それでも今やる価値があるのはなぜなのでしょうか?
何度も述べている通り、AIファーストは、
そんな可能性があるからです。
また、今後多くの企業がAIファーストカンパニーとなった場合、
今AIファースト化を進めなければ、もうその未来には全く競争にならない可能性も考えられます。
だからこそ世界の先進的な企業がAIファースト化に取り組んでいるのです。
7章や8章で解説したAIファースト化のための8つの取り組みや参考事例をお読みいただき、ぜひ貴社のAIファースト化へご活用いただければと思います。
今回解説できなかった「システム思考」や国内企業のAIファースト化事例の個別詳細については、次の機会に解説いたします。