2026/2/17 article
AI投資への関心度がより一層高まってきています。
しかし「AI投資」という言葉が一人歩きし、その定義が曖昧なまま意思決定をしてしまうことはリスクが大きい投資となってしまいます。
それゆえ、「AI投資」の定義を整理し、AI投資〜回収までの設計手法を身につけることが経営者に必須と考え、今回はAI投資について経営者(経営層)が考えなければならないことをまとめました。
そもそもAI投資とはなんでしょうか。
弊社では、
・人材育成
・データ基盤構築
・業務変革
・システム開発
のいずれかに該当する投資であると考えています。
会計上は、システム開発以外の項目は無形資産として扱うと考えられます。
この無形資産という性質が、経営者が抱きやすい根本的な懸念、すなわち「投資から直接的な利益を生み出しにくい」という問題と深く関係しています。
現在流行しているAIツールの導入は、広義では人材育成の一環と捉えることができます。
人材育成という名の通り、その真の効果を発揮する部分はツール導入ではなく「育成」にこそあります。
「ツール導入」だけでは、「ツールを使いこなす人材を生み出す」という本質的な目的が達成できず、成果への期待と現実の乖離が生まれるだけです。
現在注目を集めているAIエージェントについても、その規模や用途によって投資分類が異なり、現段階では利益を生む事例が少ないためAI投資を考える際には注意が必要です。
前提としてAIエージェントは開発内容によって会計上は以下のように分類できます。
・小規模エージェント=無形資産
・大規模=システム開発
一般的な企業で、個人業務をアシストするための小規模エージェントを開発して直接利益を生むことは難しく、大規模エージェントにおいても、まだまだハードルが高いでしょう。
AI投資が「期待先行」になりやすい最大の課題は、ROI(Return On Investment:投資利益率)の算出が極めて困難な点にあります。
システム開発であれば、その費用に対してどのくらいの売り上げがあったのか、そして利益がどのくらいか、というのを単純に計算すれば良いので、費用対収益の計算は比較的シンプルです。
しかし人材育成や業務変革は、その効果を定量的に測ること自体が困難です。
さらに、AIは現在進行形で実態が変化し続ける不確定要素の高い無形資産であり、将来の成長性にも不確実性が伴います。
従来の投資評価の物差しでは測りきれないのが現実です。
しかし、経営においてROIを正しく算出するには、「いつまでに」「いくら」「どの方法で」回収するか、という具体的な計画が前提となります。
その計画を描くためには、AI導入すると同時に、その計測指標も、またこれまでにない全く新しいものを考える必要があるのかもしれません。
AI投資を会計的に言い換えるならば、手元の現金を減らし、未来に回収を期待する資産を増やす行為です。
この性質を理解した上で、どうAI投資を考え、どうROIを測るべきか?ということについて、経営者の方は今後考えていく必要があるでしょう。
「のれん」とは、企業買収(M&A)において発生する無形資産のことです。
ブランド力、顧客基盤、技術力、人材、信用力などの目に見えない価値に対して支払うプレミアムを指します。
M&Aにおいて買収企業は、対象企業が将来にわたって生み出す超過収益を信じ、その期待を資産として積み上げます。
しかし期待通りの利益が生まれなければ、最終的に待っているのは減損です。
AI投資は、この構造と本質的に似ています。
もちろん、会計上AI投資は「のれん」には該当しません。
したがって、のれんのような償却処理も行われないことは要注意です。
あくまで投資の観点から見た一つの例えです。
しかし経済的な性質で見れば、両者は極めて近い性質を持ちます。
AI導入によって企業が短期的に得るのは、目に見える利益ではなく、「期待」「成長ストーリー」「先進企業としての評価」といった無形の価値ではないでしょうか。
これはまさに、M&Aにおいてのれんとして期待されるものと重なると思います。
問題は、この期待が現実の利益につながるかどうかです。
もちろんAIへの投資が成功すれば、大きな利益と持続的な競争優位性を手にすることができます。
しかし反対にAI投資に失敗すれば、価値を持たない無形固定資産だけが残ってしまいます。
のれんの減損と構造は同じですが、AIはのれんよりもさらに成果を予測しづらく、効果を定量化しにくい点が経営者を悩ませる種となります。
それにもかかわらず、現在多くの企業がAI投資という困難な投資競争に参入しています。
このことはいずれ、成功する企業と取り残される企業とが必ず現れることを意味しています。
だからこそ経営者は、短期的なトレンドに流されず、長期的な利益と競争優位をどう実現するかを今すぐ具体的に計画しなければなりません。
AI投資の本質を直視することが、経営者に今求められていると言えるでしょう。
「AI投資に踏み切ったが、生産性向上も業務変革も実感できないまま、AIの現場導入が進まない。」
そうした状況に陥る企業は少なくないと思います。
こういったことがなぜ起きるのか考えてみたいと思います。
根本的な原因は2つあると考えます。
・1つ目は、AIを「魔法の杖」と誤解し、本当の変革から目を背けていること
・2つ目は、トレンドに乗ることを目的化した、根拠のない短期的なストーリーしか描いていないこと
どちらも共通しているのは、現場への実装の難しさと、それを乗り越えるための緻密な実行計画を軽視している点です。
導入の痛みと現実から逃げた企業、具体的な計画を描けない企業は、このレースから脱落していきます。
では、成功する企業は何が違うのでしょうか?
問われているのは、目先のツール導入やトレンドの追求ではありません。
経営そのものをどう変革するか、その覚悟であると、言っても良いかもしれません。
AI投資で真に大きな変革と利益を生み出すためには、業務の一部にAIを取り入れる発想では足りません。
あらゆる経営判断をAIを前提として設計し直す、「AIファースト」の姿勢が必要なのです。
AIファーストとは、すなわち経営変革そのものを指します。
そして突き詰めれば、経営者の覚悟と決断の問題に行き着くのではないかと考えます。
これまでAI投資における経営者の覚悟と決断の重要性について述べてきました。
しかしそれは、やる気や熱意といった精神論で完結する話ではありません。
真に問われるのは、具体的な実行計画を策定し、それを組織として遂行するオペレーションの設計と実行の部分です。
そもそもAI投資とは何かというと、設備のように即時に価値が確定する投資ではなく、将来の成長や競争優位を期待して行う投資のことです。
これまで述べた通り、多くが会計上の「のれん」の概念に近く、投資時点では価値が確定していないプレミアムへの投資ということもできます。
したがって重要なのは、その不確定な無形資産を、どのようにして具体的な事業価値へ転換していくかということです。
そのためには単発の施策ではなく、段階的に変化を生み出す中長期的なロードマップが不可欠であり、このロードマップこそがAI投資の実行計画となります。
そして計画が全社横断的である以上、部門最適ではなく全体最適を志向する経営者の明確なリーダーシップが求められます。
では、そのロードマップはどのように描くべきなのでしょうか。
また、どのようにオペレーションへ落とし込むべきでしょうか。
・第一に行うべきは、AI活用に関わる取り組み要素を分解することです。
・第二には、それらの因果関係や依存関係を整理し、実行順序を明確にすることです。
この構造整理が、現実的かつ再現性のある計画策定につながります。
以下の記事では、弊社が企業のAIファースト化を支援する中で実践してきた「4つのステップ」と「8つの取り組み」について、他社事例を交えながら解説しています。
AIファースト化の実行計画ガイドとして参照いただければと思います。
さて、実際にAIファーストの取り組みを開始すると、経営者はどのような課題に直面するのでしょうか。
課題は多岐にわたりますが、典型的かつ多くの企業で発生するのが、経営層と現場社員との間でAIに対する期待値や評価が乖離する問題でしょう。
なぜその乖離が生じるのか?
その背景にはどのような前提条件があるのか?
そして、どのように是正すべきか。
これらについては、次回Part2「経営層と現場社員のAIへの期待と評価が乖離する理由と不都合なAIの前提条件」にて詳しく解説いたします。