ERPのAI化は現在、ほぼすべての企業が検討段階にあるか、取り組み始めている共通課題なのではないかと思います。
将来的に広がるであろうAI駆動型経営の多くも、実はこのERPのAI化を意味しているケースも多いのかもしれません。
しかし、生成AIが世間に認知され普及しはじめてきたとはいえ、ERPのAI化については明確な答えを持たない企業が多く、それどころか取り組み自体をまだ始めていない「様子見」の段階にある企業の方が多いのかもしれません。
この記事では、ERPのAI化を現在検討中の企業に向けて、どのような取り組みが必要なのかを考察します。
なお、ERPの基本概念については既知であることを前提とし、ここでは解説しません。
ERPの基礎について詳しくお知りになりたい場合は、関連情報をご参照いただけますと幸いです。
ERPへのAI導入目的は、大きく2つあると考えています。
1・業務自動化
2・意思決定支援
反復的で時間のかかるタスク(資料作成、データ入力、会議メモの要約など)をAIが代替し、自動化→作業のスピードアップを目指します。
目的としてはコストカットが主となります。
ただしこれにより人力での作業は減ることになるので、スタッフにはより価値を生む仕事に取り組んでもらえる、という効用も考えられます。
AIが膨大なデータを分析し、人間が見抜きにくいトレンドや異常を検知し、意思決定者に有益な示唆を与えます。
予測分析(需要予測、売上予測)や異常検知(不正兆候検出)、その他データを通じて、より迅速で客観的な意思決定を支援することが目的です。
現在の生成AIの進化により、ときには人間だけでは思いつかなかったアイディアを得て、より創造的な意思決定を行うと言うような使い方も出始めているように思います。
ただし意思決定をすべてAIに任せる、と言うような事は当面起こり得ないのではないか、とも予想できます。
まとめると、AIによって自動化できる作業はAIに任せ、人間は意思決定に集中する、という体制作りがERPへのAI導入の目的となります。
ERPにおけるAI市場は急速に拡大しており、2024年から2033年にかけて年平均成長率(CAGR)26.30%、465億ドルに達すると予測されています。
主要ERPベンダーのAI化の取り組みを確認してみます。
「AIファースト」戦略を掲げ、130以上の生成AIユースケースをクラウド製品に組み込んでいます。
対話型AIアシスタント「Joule」により、自然言語でのシステム操作やABAPコード自動生成、さらには複数のAIエージェントが連携して業務プロセスを自律的に実行する構想を推進しているようです。
Fusion Cloud ERP全体にAIを統合し、組み込みAI機能の拡充と顧客独自のAI機能追加を可能にする拡張フレームワークを進めています。
Document IO AgentやLedger Agentといった「AIエージェント」を提供し、自動文書処理や例外監視、ナラティブレポーティングなどを可能にすることを目指している様です。
Dynamics 365に「Copilot」機能を広範囲に統合し、AIアシスタントとして洞察提供、タスク自動化、意思決定支援を進めています。
商品商品説明自動生成、サプライチェーンにおける自動警告メールドラフト、会計調整エージェントなどの機能を提供し、Office製品との連携強化も進めています。
中堅企業向けクラウドERPとして、請求書処理自動化、需要予測、パーソナライズ体験、サプライチェーン最適化にAIを組み込んでいます。
テキスト生成や計画・予算編成のデータ分析自動化機能も追加されている様です。
ERPのAI化には、データ品質、セキュリティ、人材不足、導入コストといった様々な課題が伴います。
これらの課題を克服し、AIの恩恵を最大限に享受するためには、企業ごとの戦略的な取り組みが必要です。
基本的な考えとしては、
・ AI対応文化を醸成し、従業員のスキルアップを図ること
・AI-ERP戦略を全体的な事業目標と整合させること
・データ品質とガバナンスを最優先すること
・適切なAI搭載ERPソリューションとパートナーを慎重に選定すること
などが考えられます。
特に今は、AIファーストと呼ばれる、AI対応文化を醸成するための取り組みが先進的な企業を中心に世界的に広まっています。
日本の企業もまずはここから取り組みのスタートなのかもしれません。
では実際の取り組みにおいて、企業は何をすべきなのか?を考えてみます。
組織が大きいほどですが、従業員へのAI教育やAIに対する抵抗感といったチェンジマネジメントに手間がかかるケースが多いでしょう。
できれば上層部主導でAIプロジェクトを推進し、部門横断的な協力体制を構築することが望ましいと思います。
また会社全体のバリューチェーンにわたり、AI活用の可能性を検討していく協力体制も必要でしょう。
そもそもですが、AI導入前に自社の業務プロセスが標準化されておらず、業務整理が必要になるケースもあります。
標準化された業務プロセスを前提とするAI導入をする前に、自社の業務フローを見直し、可能な範囲で標準化することがAI適用をスムーズに進める上で重要です。
標準化されていないとAI化を進めても思うような効果を得られません。
大企業の様なリソースがある企業ほど、内製でAI化を進めようとする傾向があります。(ERPよりも新規事業展開などで特に多いかもしれません)
が、進化の早い現在のAIにおいては、開発中に機能がコモディティ化し、意味がなくなってしまう、、、ということも頻発します。
よって、基本的には、ベンダー提供の既存システムを使用した方が、導入のスピードも早く、進化に対応しやすいはずです。
過度な開発は運用負担を増大させ、将来のアップデートの障害となる可能性があるということも理解しておくべきでしょう。
また、ベンダー提供の安価で手軽に使える標準AI機能を最大限に活用することで、コスト削減を実現することもより容易になります。
2025年現時点でAIの最もホットなトピックといえばAIエージェントかと思います。
将来のERPシステムも、進化したAIエージェントが複雑なプロセスを自律的に実行する”ハイパーオートメーション”ともいうべき高度な自律システムへ向かうと予測されています。
しかし現時点では、完成されたAIエージェントはないため、各企業が、それぞれの目的に合わせ、最適なAIアプリケーションを選択、柔軟に組み合わせて、特定のビジネスニーズに適応したシステムを構築できるようにする、といった知識とスキルが求められます。
局所的にはZapierやMCPといったツールを使うといったシーンもあるかもしれません。
いかがだったでしょうか?
AI搭載が当たり前になる、次世代のビジネスアプリケーションの時代は既に始まっています。
この変革の波に乗り、AIを戦略的に活用する企業が新たな価値を創造し、競争優位を確立していける、と考えるのも自然です。
各企業様のERP AI化の、何かのヒントにしていただければ幸いです。